エアコン内部の汚れに対し、熱交換器を急速冷凍して大量の霜をつけ、たくわえた霜を一気に溶かすことでホコリやカビを洗い流す、新方式のクリーン技術「凍結洗浄」。「エアコンの熱交換器は凍らせないもの」という常識を覆して生まれた新機能は、発売と共に市場でも大きな話題に。その成功の裏には、メンバーの妥協しない姿勢と粘り強い試行錯誤の日々がありました。
Profile
本プロジェクトの開発推進リーダー
K.Y.
設計開発を担当
Y.T.
機能開発を担当
M.A.
性能評価を担当
T.T.
01
これまでにない発想で生まれた凍結洗浄の技術。
コードネームは「春の尾瀬」。
K.Y.リーダーとしてこのプロジェクトを取りまとめました。さまざまな新規開発の方向性がある中で、まず事前調査でエアコンの清潔性への消費者ニーズが高いことを把握し、従来から採用している当社独自のステンレス・クリーン システムに加えて、さらに清潔性を強化できる方法を模索することになったのです。とはいえ、最初の時点では具体的な案は何もなく、まずは製品企画、設計、RDI(R&D/イノベーション)、株式会社日立製作所 研究開発グループといったいろいろな部署が集まってアイデアを出すところから始めました。エアコンの清潔性の中でも特に大きな課題が、室内機内部の熱交換器部分に付着する汚れ。熱交換器は空気を暖めたり冷やしたりするための部品で、室内機内部で大きな部分を占めています。ここに汚れが付着することで、いやなニオイがしたり、性能が低下してしまうことも問題でした。今回はこれを何とか解決したいということで、前例にとらわれないアイデア出しと徹底した検討を行いました。何度も打ち合わせを重ね、いくつものアイデアの中から出てきたのが、のちに社内で「春の尾瀬」というコードネームで呼ばれることになる、凍結洗浄のアイデアです。
02
予備検討で汚れが落ちるのを目の当たりにしたときは、
「おおーっ」と声が。
Y.T.私はこのプロジェクトで設計を担当しました。これまでも、通常のエアコンの運転で発生する結露の水を使って内部をきれいにする機能はあったのですが、汚れを落とす力をより高めるには、流す水の量を増やすこと、しかも瞬間的に発生する水を増やすことが重要だと気がついたのです。そこで、水を凍らせて霜として熱交換器にたくわえ、一気に溶かすというアイデアが出てきました。しかし、熱交換器を凍らせるというのは、エアコンの運転上今までタブーとされてきたこと。逆転の発想から生まれたこの方法が本当に可能かどうか、検証をRDIのM.A.さんと一緒に行いました。
M.A.試作機を作って、その熱交換器に特殊な土埃をつけて実験しました。すると、熱交換器を凍結させてついた霜が溶ける際、茶色い土埃が浮かび上がって流れていくのがはっきりと見えたんです。その様子を目の当たりにしたときは本当に驚きました。
Y.T.試験室にM.A.さんといたのですが、「おおーっ」と二人で声を上げてしまいましたね。「これでいける」と確信した瞬間でした。その様子を収めた動画を幹部に見せると、すぐにゴーサインが出ました。そしてここから先、このプロジェクトは情報が外部に漏れてはいけないということで、コードネームで呼ぶことになりました。
K.Y.春の雪解け水のイメージで、コードネーム「春の尾瀬」。何十年もこの会社にいますが、開発にコードネームがつけられたなんてこれが初めてでした。それだけ会社の期待も大きかったのだと思います。
03
1日8時間、ホコリと油まみれで実験。
「すごい機能だ」と確信が深まっていった。
M.A.私はR&D/イノベーション本部という部署にいて、エアコンに搭載する機能の研究開発をしています。アイデア出しと予備検討を経て「凍結洗浄」の方向性が固まった後は、長期間使用した場合の汚れへの効果を検証する実験に集中しました。加速実験といって、エアコンを一般家庭のリビングで長期間使ったのと同じ状態にするために、試験室の中でホコリと油煙を強制的に何回も発生させて熱交換器に付着させます。それを凍結洗浄のついているエアコンとついていないエアコンで同時に行い、両方を比較して長期間使用した時の凍結洗浄の効果を検証しました。実験に必要な油煙の発生は手作業で行わなければならず、大量のホコリの舞う試験室で、真夏にマスク、防護メガネ、つなぎ着用で、熱した油に水溶き小麦粉をお玉で入れてはジャーッと油をはねさせるという地味な作業を毎日くり返していました。
K.Y.今は油煙を自動で発生できる立派な試験室ができましたが、当時は大変でしたね。
M.A.開発当時はまだ人力でやっていたので(笑)。そんな大変な実験でしたが、1年経過相当、2年経過相当、とエアコンの状態をチェックしていくと、凍結洗浄のついたエアコンのほうが、明らかに汚れが少ない。それを見て「本当に落ちるんだ、これはすごい機能だぞ」と確信が深まっていきました。
K.Y.開発の途中段階で検証状況を営業部に公開する機会があって、凍結洗浄のついているエアコンとついていないエアコンでの比較画像や動画なども見てもらったのですが、そのときに拍手が出ましたね。営業からのこれほど大きなリアクションは、今まで経験がなかったことです。
04
今までにない機能ゆえ性能評価もゼロから。
項目出しの100本ノックが始まる。
T.T.私はいわゆる品質保証、開発したものが製品として問題ないか性能を評価する仕事をしています。先程も話に出たように、今回は、従来凍らせない前提で運転している室内機の熱交換器を凍結させるというまったく新しい製品なので、どんな問題が起こりうるのか、何を検証すればよいのか、検証項目もゼロからのスタート。ですから、検証の項目出しも設計の人達と顔を突き合わせて行い、「100本ノック」と称してみんなで思ったことをどんどん出し合って検証していきました。最終的には200本になってしまったのですが(笑)。ひとつクリアするとまた次に「ここも検証したほうがいいんじゃないか」ということが出てくるので大変でしたね。また、新しい機能を搭載するからといって今までの品質を落とすわけにはいかないので、ギリギリまで設計とやりとりして製品を作り込んでいきました。新製品を載せた初出荷のトラックを見送ったときはホッとしたのを覚えています。
Epilogue
メンバーの視線はもう次へ。
開発は走り続けている。
M.A.製品が発売されてから近所の家電量販店に行ってみたのですが、凍結洗浄のエアコンが置いてあるところに人だかりができていたんです。それを見たときは、うわー、すごい反響だなと思って嬉しかったですね。
T.T.私も量販店に行ったら、ちょうど近くにいた方が、凍結洗浄が決め手になってエアコンを購入するところを目撃してしまいました(笑)。凍結洗浄という機能がお客様に評価されていることが、間近で実感できましたね。
Y.T.社内に入ってくる営業からの情報でも発売2ヶ月の時点で、前年に比べてとんでもなく売れているという報告があって、それはもう作った甲斐があったなと思いました。
K.Y.今回のこの開発は、立ち上げが2016年の8月頃で、発売が翌年の10月。およそ1年の開発期間でここまでこぎつけることができたのは、関わっている全員が同じ方向を向いて協力し合い、妥協せずにやり切ったからだと思っています。社内的にも注目度が高いプロジェクトだったので、メンバーにもプレッシャーはあったと思いますが。
Y.T.でも始めたからには「できない」っていう着地点はまずないので(笑)。難しいときは「じゃあどうしたらできるか」を、とにかくみんなで話し合って考えましたね。行き詰まったときには抱え込まずに誰かに相談しました。相談されて嫌な顔をする人はこの会社にはいないので。
K.Y.この製品は開発段階から営業と意見交換をしながら作り上げていて、このような部門の垣根も越えたチームワークの結果、全社的に納得のいく機能となりました。営業の努力もあって売れ行きも好調で、何より世の中のみなさんから求められていた機能だったと感じられ、達成感も大きかったです。でもここで立ち止まるのではなく、手が離れると同時に別の製品の開発に取りかかったり、他の仕事が並行していたり、メンバーそれぞれすぐ「次」が始まります。これからも画期的な製品を作っていくため、新しい技術に向けて常に走り続けているという感じです。