日立ビル用マルチエアコン「冷暖切換型 フレックスマルチ 高効率タイプ」は、製品容量14.0kW~50.0kWのすべての機種において業界トップ※1の省エネ性能(APF2015※2)を達成し、平成28年度の「省エネ大賞」と「地球温暖化防止活動環境大臣表彰」をダブル受賞。不可能とも思われた目標をクリアした原動力は、すべての部署における妥協のない技術の追求と、互いに助け合いピンチを克服するチームワークでした。
※1 ビル用マルチエアコンにおける「てんかせ4方向」との組み合わせにおいて。2017年1月16日時点。
※2 JIS B 8616:2015に基づく通年エネルギー消費効率。数値が大きいほど省エネ性能が高いことを示します。
Profile
本プロジェクトの開発推進リーダー
K.T.
熱交換器設計を担当
M.T.
ユニット設計を担当
S.Y.
圧縮機設計を担当
S.M.
インバーター基板のハードウェア設計を担当
N.H.
01
最初に打ち立てたのは「全機種で業界トップの
省エネ性能を達成する」という、無謀とも思える目標。
K.T.開発を取りまとめる開発推進リーダーとして、今回の新型ビル用マルチエアコンのプロジェクトに関わりました。開発にあたり、競合他社を凌駕するには日立ジョンソンコントロールズ空調の強みである技術力を活かすしかないと考え、エアコンの省エネ性指標であるAPF(通年エネルギー消費効率)で「全機種業界トップの省エネ性を達成する」という製品コンセプトを打ち立てました。全機種というのは高効率タイプ140~500型の全容量でトップを取るということです。それともうひとつ今回実現したかったのが、製品のコンパクト化。コンパクトにすることでお客様の導入コストが抑えられるので、より売れるエアコンになると考えました。ただし、コンパクト化と省エネ性能との両立はかなり難しい課題でした。
M.T.私は普段からK.T.さんのチームで働いていて、本プロジェクトにも早い段階から関わっていましたが、「全機種業界トップの省エネ性」はかなり厳しい目標と感じて「本当に達成できるのか?」と思いましたね。実際プロジェクトの最後の最後まで、できるかどうかというギリギリのところでの挑戦でした。
K.T.何しろとんでもなく高いハードルなので、社内でも本当にできるのかという話になりました。しかし、もう言ってしまったからにはやるしかないと。工場全体で100名以上が関わり、更に全部門参画によるコンカレントな商品開発体制であるSプロ(ソリューションプロジェクト)も適用した、一大プロジェクトになったのです。
02
2機種の新型圧縮機を開発。
ユニット設計からの難しい要求スペックに驚き。
S.M.私は圧縮機の設計を担当しました。圧縮機はエアコンの中で冷媒を循環させる、いわば心臓の役割。今回のプロジェクトでは、高レベルな性能の圧縮機を求められたため、かなり難易度の高い開発でした。
K.T.今回、圧縮機については思いきり要求スペックを上げたからね。
S.M.ユニット設計から最初に出てきた要求スペックを見たときに、エアコンの各部品でそれぞれ性能アップの目標数値が記載されているのですが、圧縮機の部分がかなり大きくて、内心「こんなにですか…」と驚きました(笑)。従来以上の性能の圧縮機を2機種、新しく開発する必要があり、しかも全体スケジュールが押していた関係で開発期間もあまりない状況でした。時間的な制約が厳しくて、実機試験によるトライ&エラーにあまり時間をかけられないことがわかっていたので、構想設計の段階から完成度の高いスペックにすることが必須でした。初めのうちは圧縮機の主担当が私だけだったので、研究所の担当者に1週間単位で数回にわたり出張してもらい、とにかく考えられる限り、いくつもの構造案を出し、弱点を潰し込み、省エネに貢献できそうな構造を選定することに注力しました。
03
性能の向上とコンパクト化、両方を満たす
基板設計という厳しい条件にトライ。
N.H.私はインバーター基板設計を担当しました。エアコンのインバーターは圧縮機のモーター制御に重要な役割を果たしていて、私は圧縮機をより効率よく動かすための開発に取り組みました。当時、私は入社1年目で、進行中のこの一大プロジェクトに関わることになりました。本プロジェクトでは、制御に関わる電気部品についてコンパクト化につながる構成の見直しがかなり行われています。部品点数を大幅に削減しながらも今まで以上の性能を実現するということで、なかなか厳しいミッションだと先輩からも聞いていました。配属されてすぐにインバーター基板絡みの問題に見舞われて、右も左もわからない新人の自分が対応をすることになり、非常に不安だったのを覚えています。でも上司や先輩や他部署のプロジェクトメンバーのサポートで何とか乗り越え、スムースドライブ制御という新しい制御による省エネ化を実現することができました。
04
本プロジェクトのキー技術となる熱交換器。
しかし終盤にまさかのトラブルが。
M.T.本プロジェクトで熱交換器の開発を担当しました。熱交換器とは冷媒と空気の間で熱を交換するため使用する機器で、空気を暖めたり冷やしたりするために重要な部品です。今回の新型エアコンは「全機種業界トップのAPF(通年エネルギー消費効率)」というはっきりした目標があったので、初期の段階から日立研究所の協力も得て、熱交換器による省エネの可能性にはいろいろトライしていました。APFを向上させるための鍵となるのは、低負荷(暖めたり冷やしたりする空気の熱量が多くない)運転時の運転効率です。これに対するキー技術のひとつが、2ファン構造の採用と、2ファン構造の効率を最大限に引き出すΣ形状の熱交換器。そしてもうひとつ、やはり低負荷運転時に性能を最大限に発揮するための新しい熱交換器パス構造の開発を、私が担当しました。低負荷運転時に冷媒流速が遅くなり熱伝達率が低下してしまう問題に対して、流路を細くして冷媒流速を引き上げ、熱伝達率を向上するパス構造を考案したのです。ひたすら性能シミュレーションをくり返し、さらに実機試験で何度も検証を行いました。
K.T.ところが、これでいけるだろうとプロジェクトを進めていた終盤に、熱交換器関係で大きな問題が発生してしまったんです。量産直前の段階で、発売に間に合わないかもしれないという緊迫した状況でした。もう試作品のテストもほぼ終わり、現場はすでに量産の準備に入っていて、この段階で熱交換器の構造を変えるなどと言い出すことは通常ありえません。しかしやむなく、熱交換器の構造を大きく変更するという判断をしました。
M.T.現場からしたら「今からまた試作品を作るんですか?」みたいな話。説得するのは大変と思われました。しかし、いったんやるとなったら全員が一丸となってチームワークを発揮。各部署が大変な集中力で乗り切りました。
05
ギリギリまで現場に通いつめて試作に次ぐ試作。
全体をまとめる苦労と喜びを実感。
S.Y.私は、製品の構想から、目標スペックを決め、試作、量産開始までの全体を担うユニット設計の担当でした。最終的に全体を取りまとめて室外ユニットを形にする役割です。すべての部品の開発と密接に関わるので、最初から各部署の担当者と頻繁に打ち合わせを重ねました。
K.T.特に開発が後半にさしかかると、相当な数の試作品を作る必要があるので、ユニット設計は試作品を作ってくれる現場と密な連携を取らないといけません。S.Y.はプロジェクト後半、現場に通いつめていましたね。
S.Y.今回のような大きくかつ新しいプロジェクトとなると、試作品もそれだけ多く作らないといけないので、後半は現場に通うのが仕事みたいになっていました。現場に足を運んで、試作の日程の相談をし、部品の話をしていましたが、当時私はまだ入社2年目の若手だったので、試作品の担当者に何度も何度も試作や調整のお願いをするのはなかなか気が引ける仕事でした。だからせめて現場には、いつも「困ってるんです!」という感じを出しながら、急いで行ってましたね(笑)。プロジェクト終盤でまさかの構成部品の変更もあり、時間のない中ギリギリまで、プロジェクトの命題である「業界トップの省エネ性能」への追求が続きました。そしてなんとか、目標を達成できるスペックの製品を世に送り出すことができました。
Epilogue
ピンチのときこそ助け合う。
当社らしいこのチームワークが成功の鍵。
K.T.今回のこの高いレベルの目標を達成するためには、すべての部品でスペックを上げていくことが必要だったので、みんなで協力しないとまず不可能だと思っていました。だからとにかく初めから、チームワークを大事にしましたね。メンバーにはいつも「直接相手のところに行って話してこい」と言っていました。チームの方針は「話せばわかる!」です(笑)。VRF/PAC設計部(ユニット設計)も他部署にどんどん話しに行っていました。すると制御設計部や圧縮機設計部からも今度はVRF/PAC設計部に話しに来てくれました。最後、熱交換器のトラブルが起きたときはもう駄目かと思いましたが、チームワークを大事にしていたおかげで、みんなで協力して一丸となって乗り越えられました。
N.H.当時入社1年目の自分にとっては、苦しい状況で自分のような新人をメンバーが助けてくれたこと、そしてみんながチームワークを大事にして目標達成のために手を取り合っているところを見ることができて、この会社で働いていく安心感を得られましたね。
S.M.この会社は、若手もどんどん製品の開発に携わらせて成長させる懐の深さがありますよね。私も「失敗してもいいからやってみろ」と、この仕事を任せてくれた上司に感謝しています。
M.T.今回のプロジェクトはAPF性能目標が非常に高かったので、試験も何度もやり直しが続いて、目標達成は不可能なのではと思うことも多くありました。でも最後に製品という形になったときの充実感は何とも言えなかったです。特に、自分が考案した熱交換器のパス構造については製品カタログにも掲載され、アピールポイントになったことがとても嬉しいですね。
S.Y.このプロジェクトは本当に苦労しましたが、製品が評価されて省エネ大賞や地球温暖化防止活動環境大臣表彰を受賞できたときには、苦労が少し報われた感じがしました。
K.T.いつも達成できそうな目標は立てないのですが、それにしても「業界トップの省エネ性とコンパクト性」はハードルが高かったですね。しかし技術の追求とチームワークで他社にない特徴ある製品を開発することができ、ダブル受賞もできて、世の中で評価されたんだなと実感しました。社内に賞状が2つ並んでいるのを見るとやっぱり「開発してよかったな」と、ときどき立ち止まって眺めたりします。